小説の人物に恋をしました。
「ソロモンの犬」 道尾秀介
今までにたくさんの本を読み、数多くの女性に出会ってきましたが、本気で好きになったのは本書に出てくる羽住智佳だけでした。と言うと気持ち悪がられるかもしれませんが、本書はミステリー小説にもかかわらず、羽住に恋をした僕と同じく羽住に恋をした主人公の秋内との三角関係小説ともなりました。
まずはあらすじから。
秋内と羽住を加えた男女4人の大学生たち。
彼らの平凡な夏はまだ幼い友・陽介の死で破られた。陽介は飼い犬に引きずられての事故死だった。
だが、現場での友人の不可解な言動に疑問を感じた秋内は動物生態学に詳しい間宮助教授に相談に行く。
そして予想不可能の結末が・・・・・。
物語の冒頭は穏やかではない。
事件後、喫茶店に集まる四人。秋内は重い口を開く。
「一度、ちゃんと話し合うべきなのかもしれないこの中に、人殺しがいるのかいないのか」
このあと 4人の出会いからゆっくりと事件の真相に迫っていく。
入学してすぐ、秋内は羽住に一目惚れをし、そして僕も一目惚れをする。
羽住はとても魅力的に描かれていたのだ。
身長162センチ。いつも姿勢が良いので、実際にはもう少し高く見える。腕を組んだり荷物を持ったりして、もともとそれほど大きくない胸を隠すと、「小柄ですごくハンサムな男」と間違われることが多い。肌の色がとても白く、それと関係があるのかないのかわからないが、生まれは北海道酒小さくて静かな街らしい。彼女は僕のことを名前で呼ぶ。それには深いトラウマがあるらしい。
こんなところにしておこう。
このあとも彼女の情報が小出しに登場するから目が離せない。
休日の羽住に初めて出会ったとか白いシャツを着ていたとか、好きな子との思い出を数えてしまうのは恋をしている故だろう。
羽住は普段は大人しいが、たまに大胆なことをする子だった。そこも魅力的だ。
秋内のアプローチもいい。奥手な彼は「話しかける内容メモ」を作り彼女に近づく。もし他の人に見つかったらどうしようとか考えないところが青春している。
秋内は僕のライバルではなく、羽住の情報を引き出してくれる重要な人物だった。
さて本書のミステリーのカギは動物生態学だ。
飼い犬がなぜ、暴走して飼い主を死なせてしまったのか。
しかし別テーマで女の落とし方が描かれている。
間宮助教授曰く女性に告白するときは低い声で話しかけた方が成功しやすい。らしい。
これはいつか使いたい技として強く印象に残っている。
変わっているかもしれませんが、僕は歴史上の人物ではソロモンさんが好きです。
ソロモンさんは頭が良くて動物とも会話ができたらしいです。
気持ち悪い男と思われないように最後は真面目なことを書いて終わります。(もう遅かったりして。)
「イン・ザ・プール」 奥田英朗
僕には一時期カウンセラーになろうと本気で勉強していた時期があり、実際にカウンセラー養成学校に通っていたことがあります。
途中で「カウンセラーとは生き方のことで職業のことではない!」と考え(かっこいいことを言いたかっただけで実際には色んな理由がありました。)、方向転換をしましたが心理学の興味は残り続けています。
本書の主人公は神経科の医師・伊良部一郎。カウンセラーとは違い医師免許を持っているからそれだけで何年も勉強されたことが分かる。
ドラマ化も映画化もしているので、Dr.伊良部一郎がどんなやばい奴なのかはご存知の方が多いだろう。
医師というだけで権威と実力がありそうに思えるが、伊良部は本当の変態だ。
特に患者に意味のない注射をするのが趣味というのは犯罪の匂いがしてしまう。
下手に明るいし、カウンセリングはしないし、バカなことばかりするし、彼は名医なのかヤブ医者なのか分からない。
しかし、伊良部はとてもユーモラスに書かれているのだが、僕は彼の手腕に注目している。それはカウンセリングはしないのだが、患者に真摯に向き合っていると感じるからである。
例えば、ガスを止め忘れたかもしれないと不安になってしまう患者には部屋の中にカメラを付けることを提案するし、ストーカーに追われているという被害妄想の症状がある患者には伊良部自身がボディーガードを買って出る。
ボディーガードをしているうちにテレビに出たくなった伊良部は俳優のオーディションを受けまくるなどの暴走をするが、次第に患者の症状は無くなる。のちに、「私が(ストーカーの被害を)訴えたとき、先生、信じていたんですか」と聞くが、「一目で被害妄想だとわかったよ。でもさ、そういう病って否定しても始まらないからね。肯定してあげるところから治療はスタートするわけ。」と答えている。
伊良部の本気で俳優を目指すという突飛な行動も患者のためだったのかもしれない。しかし、本気なようにも見えるから患者は次第に自分のことより伊良部のことを心配になり症状が緩和されていくのである。
そう考えると伊良部のすごさは演技力かそれとも無邪気過ぎるほどの素直さか。
表題作の「イン・ザ・プール」は水泳中毒の患者の話。
案の定患者に付き合って伊良部も水泳にハマる。
ラストはかなりおかしいので、一読の価値ありだ。
「老後の資金がありません」 垣谷美雨
皆さまは老後の資金は貯めていますか?
僕はまだ貯められていません。考えたこともないくらいです。
年金制度に頼りたいという気持ちは薄いものの全くもらえないのは嫌です。
まだ僕のまわりには備えていない人の方が多い気がするのですが、それは僕がまだ世間的には若いからでしょうか。
本書の主人公は50代の主婦の篤子。
篤子にはお金にまつわる悩みが次々と襲いかかってくる。
娘の派手な結婚式や舅の葬式の費用の捻出。それに加えて夫婦揃っての失職もある。
どれも身近に起こりそうな問題だけを扱っている。
この年代の女性は悩みが多そうだ。だからこそ篤子を主人公に据えたのだろう。
とても憂うつな展開が続くが小説としてはあまり悲観せずに読むことができた。
僕の先読み能力が本書はハッピーエンドで終わる予感がしていたからだ。読んだ人の判断は二分化されるだろうが、僕の中では読後感の良さが最高級のものとなった。
ただ、二点気になるところがあった。
一つは篤子は出したくないお金を出し過ぎていないかということ。
夫が見栄を張ったり、相談に乗ってくれなかったりする要因はあるが、それでも大金を出す時に自分の意見を言えないものかな。
僕も女性とご飯に行くと予算が厳しい時でもおごってしまうのだが、そんな気持ちと同じ感じなのかな?
もう一つは夫の退職金について。
夫は会社の再建にともない辞めることになったがその時に退職金が出なかった。
これは僕の将来をとても不安にさせた。
垣根涼介さんの「君たちに明日はない」(←辞めさせ屋の話です。泣けました。)ではクビの扱いでも退職金をたっぷり出していたのだがその時とは時代が違うということなのか。
夫は再建の前に辞めることになっていたら退職金をもらえたのだろうか。
そうすると今のサラリーマンには辞め時を測る力も必要になるということなのか。
ただ会社のピンチに退職金目当てに辞めるというのは薄情な奴だと思われないか。
大金がかかる時には自分の意見を言った方がいい気がするけど、実際には言えない気がする。
うーむ。わからない。これは奥さんには相談できない内容かもしれない。けど、何で言ってくれなかったのって怒るだろうな。うーむ。
あれ、いつのまにかグチみたいになってしまっていましたね。
やはり本書で僕の不安が引き出されてしまったようです。
どんな老後になっても大好きな本に囲まれていたいものです。
「俺、猫だけど夏目さんを探しています。」 白野こねこ
写真が残っていたら公開したかったのですが、実家で飼っていた黒猫のくまは世界一美しい猫でした。
長い睫毛と切れ長の目、人を寄せ付けない雰囲気を持ちつつも寒い時は甘えてくるツンデレさんでもありました。
それに加え、胸元と足の付け根に白い毛が生えていてそれが下着姿のようで、色気がたっぷりとありました。
時々、くまが足を広げて座っていたら家族でお嫁に行けなくなるよと注意していました。
本書の主人公もくまと同じく黒猫です。
お腹の一部が白いのも似ていますが、作中ではブサイク猫と呼ばれていたし、表紙の絵を見てもくまの方がかわいいです。
でもクロのおかげで黒猫の白い部分のことをエンジェルマークと呼ぶことを初めて知ることができました。
改めてくまのエンジェルマークはセクシーでしたが、くまの話はもうきりがないので終わりにします。
本書のタイトルから分かる通りに語り手が黒猫のクロで、夏目さんは野良猫のクロにエサを与え続けた優しいOLさんとして描かれている。
本書は野良猫のクロが元野良猫のクロになり、夏目さんが元夏目さんになるまでをていねいに描いた家族の話だ。
夏目さんと使い魔(←クロは夏目さんの恋人を使い魔と呼ぶ)がドタバタがあって仲良くなる様子はとても微笑ましかった。
ドタバタを詳しく書くと、夏目さんはクロにエサをあげるなど、猫好きでクロのことを可愛がっていたが、そこに使い魔が来ると逃げてしまう。
それが何度かあり、次第に夏目さんはクロのところに来なくなってしまう。
このままだと食いぶちをなくしてしまうと考えたクロは夏目さんを探すことに。
何とか夏目さんを見つけることができたが、そこに使い魔が現れて不穏な空気になる。
(何度も街中で二人と一匹がばったり会うのは偶然だ。)
夏目さんが使い魔を避けていた理由はくだらないので書かないが、答えとしては使い魔の妻が夏目さんとなる。
その後、二人は結婚して双子を生み、クロを家族として向かい入れる。
一方でクロは美しい白猫と子どもを作る。
双子をしっぽであやすクロは猫にない忠誠心を持っていて素敵だ。
他には使い魔の妹と元夏目さんの弟の話、クロが神様猫として崇められるというほっこりする話が続く。
猫小説としてはモフモフ感(?)が足りなかったことと、日常の謎系ミステリーをやりたかったのだろうが謎が弱すぎたという弱点がありました。
しかし、猫の交尾を真正面から書いたことが珍しいのと、エンジェルマークという言葉を教えてくれたから満足な一冊になりました。
「白球ガールズ」 赤澤竜也
本書は女子の硬式野球部の話です。
ソフトボールとは違うスポーツで、あまり認知されていない種目かもしれません。
ソフトボールはオリンピックがあるのに女子野球はオリンピックはないせいかもしれないですね。
2010年に女子プロ野球ができたので、今はとても盛り上がってきているように感じます。
ホームランこそ少ないですが、ピッチャーの球速は130㌔近く出るのですごく迫力があります。
かわいい選手が多いのもいいですね。僕は川端夕紀選手が好きでした。ヤクルトスワローズの川端選手の妹さんです。
片岡安祐美選手もすごくかわいいですね。彼女はプロではありませんが。
今回、雑談が長くなったのはどうしても野球に親しくない方には本書の素晴らしさは伝わりづらいかと思ったからです。
でも女子だって甲子園に行きたい子たちのことを知って欲しくて書きました。
(甲子園のルール上、女子が試合に出ることは許されていませんが。)
主人公の青山由佳は幼い頃から甲子園に憧れてきた。もちろん出られないことは知っているのだが、野球は続けてきた。
女子硬式野球部がある高校に入ったもののなんやかんやがあって試合に負ければ廃部の危機となってしまった。
勝利に向かって戦う由佳とゆかいな仲間たちは見ていてとても楽しい。
ストーリーとしてはよくありがちで、負ければ廃部。厳しい顧問。自由奔放な仲間。強豪との試合。ライバルとのバチバチ。
スポーツドラマあるあるが詰まっていてとても楽しい。
細かいところだが、僕が気に入ったポイントが2つあった。
一つ目は本編に入る前の登場人物の紹介だ。
僕はキャラを覚えるのが苦手なので何度も紹介のページに戻っては確認することができた。
もう一つは試合の描写にリアリティがあったことだ。
女子野球は長打が出づらいので、バントがとても重要になる。
本書でもバントを多発していて少しもどかしい気にもなったが、勝つ為に必要ならば確実に遂行するべきだ。
他にも守りや勝ち方などの戦略的な部分で筆者の野球愛を感じることができた。
もっと暑くなったら甲子園の季節ですね。
でも読書では一年中スポーツを楽しめるのがいいところですよね。
僕は運動せずに読書ばかりしているので、体重の増加を恐れていますが、気にしないように日々を過ごしています。
「コンビニララバイ」 池永陽
この本を読んでいた当時、僕の夢はコンビニの店長になることでした。
伝説のコンビニが見つからなければ、自分で作ってしまえと考えていました(このネタを分かってくれる人はめったにいないです)。
ただこの頃はちょっとやる気が落ちていた時だったので本書に登場するミユキマートの店主に憧れを抱きました。
本書はミユキマートというコンビニの店主や店員と利用する客が語り手となる連作短編集となっている。
店主は妻子を事故で亡くしてからというもの、経営に身が入らず内引きや万引きを見逃してしまうし、発注は投げやりで店には哀愁が漂っている。
そんな負の光に引き寄せられるように色々な人が集まりドラマを作る。
堅気の女性に惚れてしまったヤクザ、声が出せなくなった女優の卵、恋人に命じられて売春をする女子高生。
時に泣き、時に笑い、と書いたもののちょっと官能要素があって悲しい話が多いかな。
ララバイだもの。
実はこの中に僕が大号泣した話がある。
最終話の「ベンチに降りた奇跡」ではミユキマートの前に置いているベンチで仲良くなった老人同士の恋を描いている。
毎日の挨拶や会話を通じ、お互いに惹かれ合うものの、女性が信仰するキリスト教の教えのために男は手を出したくても出さない。
店主や店員は色々とおせっかいを働き、焚きつけるものの、二人の仲は進展せず、ある日女性は倒れてしまう。
悲しむ男の声が天に届いたのか奇跡が起き、さらには店主のやさぐれた心にも影響を与えるというストーリー。
ドラマでもそうなのだが、僕はおじいちゃんとおばあちゃんに弱い。
おじいちゃんおばあちゃんが活躍する素晴らしい物語は僕も魅力的なおじいちゃんになる為に今を頑張ってるんだなと思わせてくれるから好きだ。
みなさんのよく使うコンビニにももしかしたら素敵な物語が詰まっているかもしれません。
スポーツ小説の不朽の名作
「おっぱいバレー」 水野宗徳
最近は本当にありがたいことにこのブログを読んで下さる方が多くなってきたと感じています。
しかし、どうしてもこの本について書きたくなりました。
本書はスポーツ小説の中でも強くなりたいという気持ちが一番伝わってきたからです。
強くなるためのノウハウが詰まっていますし、スポーツの祭典が近くなった今にぴったしな気がします。
と言い訳を重ねてみたもののやはりどうしても下世話な話になってしまうので、女性の方は薄目で読むか、これだから男子はやーねーなどと言いながら読んでいただけたら幸いです。
中学生二年生の彼らは弱小バレー部員だ。
新学期、新任の寺嶋先生(映画では綾瀬はるか。ピンクのジャージ姿が可愛らしい。)は全校集会のあいさつで「道程」の詩を朗読する。
もちろん男子たちは大爆笑なのだが、その理由に気づいていない寺嶋先生は天然だ。
寺嶋先生が新しく男子バレー部の顧問を任されたが、現状を知りショックを受ける。
部員たちはろくに練習もせず、マージャンをしているし、女子バレー部との練習試合で完敗するわで、手のつけようがない。
しかし寺嶋先生は熱を持った教師だった。女子に負けてもなお、マージャンをしていた部員たちに「ふざけるのもいい加減にしなさい!私はあなたたちが頑張るなら、どれだけでも付き合ってあげる。私はそういう教師なの。あなたたちを思う気持ちは誰にも負けない。」
「本当に僕たちのためならどんなことでもしてくれるんですか?」と部長。(ちなみに寺嶋先生はなんでもするとは言っていなかった。)
「ええ。それだけは誓うわ」
「じゃあ試合に勝ったら先生のおっぱいを見せてください。」
この後半ば強引に約束させられた寺嶋先生は地区大会で優勝したら見せると約束し、部員たちはおっぱいを見るためにメキメキと力をつけていく。
多分にふざけたストーリーなのだが、筆者は真剣にスポーツと向き合っているように感じる。
部員たちの身長やプレーの特徴をていねいに書いているし、部長がセッターなのもいい。
部長がおっぱいまでの道を作り、部員たちの士気を上げ、アタックを決めさせる、実に仲間想いの部長だ。
筆者は一つの強力な動機があると、強くなれることを知っている。ある者はインターハイを目指し、ある者は日本一なりたいし、そして彼らはおっぱいを見たい。
どんな動機であっても一生懸命に練習したことは一生の財産になるし、正しい努力を続ければ結果もついてくるだろう。
一つの強力な動機で結びつく彼らの青春を僕は純粋な気持ちで応援していました。
途中から僕は何を言っているんだろうという気持ちになりましたが、本書は上質なスポーツ小説だと思っていることは本当です。
そして大人になってもモテるために頑張りたい、女性のために頑張りたいという動機は不純なものではないとも思っています。
本書はコメディ小説であってとてもふざけた内容が最初から最後まで続きますが、試合の描写の臨場感は凄いです。
そのギャップもヒットの一因かもしれませんね。
「コンビニ人間」 村田沙耶香
先日参加した読書会でこの本を紹介する人がいて、「この主人公が変わってるんです」と言われたが、僕にはそうは思えなかった。
僕と本書の主人公はとても似ているからだ。
主人公は古倉恵子36歳。コンビニバイト歴18年。社会といえばコンビニでのバイトしか知らない。
店員でいるときのみ世界の歯車になれる。そんな日々に満足していたが、ある日アルバイト仲間として一人の男が入り、恵子の人生は動き始める。
語り手が古倉恵子。それだけに彼女がどれだけ真剣で、まじめに働いているかがよく分かる。
コンビニを円滑に営業するための努力も欠かしていないし、社会にとって自分を道具として使ってくれていることを嬉しく思っている。
ここで改めて始めに戻る。彼女は変わっているだろうかと。
周りの目が気になり過ぎたり、男と奇妙な同棲生活を始めたりしたことは変かもしれない。
だが、それすらも恵子が社会性を身につけたいが故のことだと思うのだ。
簡単には理解できない人だなとは思う。
正社員を目指して欲しい気持ちもある。
しかし、誰にも彼女がやりたいことを妨げる権利はないし、彼女が幸せならばその方がいい。
僕には彼女は普通の人の様に思える。ちょっとまじめすぎる人なのかなって。
もちろん筆者としては変わった人として書いていることも理解できるのだけれども。
ラストはハッピーエンドだったように思うが、人によっては別の感想を持つ人もいると思う。
また始めに戻りますが、僕と彼女は似ています。
僕は元コンビニの社員でした。
一年間のほとんどをコンビニで過ごす激務でしたが、この時間には何をして、この時間にはこの仕事をしてもらってという働き方は性にあっていたと思います。
ただ激務の後遺症があって、今でも毎日11時に近くなると落ち着かなくなってしまいます。
11時前に事務室内にある送信ボタンを押さないとせっかく発注したデータが送られていないことになり、あらゆるところに電話して発注するはめになるからです。
古倉恵子にはそうなって欲しくない気持ちがあります。
まとめになるかは分かりませんが、古倉恵子はあらゆる小説に出てくる登場人物の中でトップクラスに応援したくなる人です。本は薄いですが、内容は深いです。
読むのが早い人なら立ち読みでも読み終われますが、社会の為には買った方がいいと思われます(笑)
「億男」 川村元気
初対面の人と話すときはとても緊張しますが、何とか会話を繋げようとすることがあります。
その時に「三億円当たったらどうする?」と聞くとなかなか盛り上がりその人のことを少し知った気持ちになります。
みんな答えが違っていて(貯金と言う人が多い)面白いですが、僕だったら本屋を建てると答えます。
僕が選ぶいい本に囲まれて慎ましく一人、カウンターに座り、お客様を待つ。そんな老後を過ごしたいです。
でも若い時、不意に大金を手に入れたら人生おかしくなるだろうな。今気に入っている仕事も辞めるかもしれない。
本書の主人公は宝くじで三億円を当てる。
そしてやることは男だったら共感できるかもしれない。それは女を呼んでパーティーを開きモテモテになること。主人公は激しい環境の変化の場に身を置くことを選んだ。
これには僕は共感できない。お金持ちな男がタイプという女性と仲良くなるよりもお互いに惹かれあって仲良くなったら実は相手がお金持ちだったという状況の方がいい。
友だちからはお前は夢見過ぎだからモテないんだよとよく言われます(^_^;)
友だちにお金を奪われ、この世の不幸を背負うかのような主人公はどのような行動に出るだろうか?
多くの偉人の言葉によって、主人公と一緒に半ば強制的にではあるが、自分と向き合わせる本書は読み手の価値観を激しく揺さぶる名作だろう。
本書は有名俳優と有名女優を使って映画化もされましたね。
キャストの一人、沢尻エリカさんに三億円当たったら何に使うかを質問すると、「私だったら一日で使い切る」と言っていたらしいです。
それが、正しい使い方な気もしますね。
「チルドレン」 伊坂幸太郎
僕は小学校の教員免許を持っていて、今までに色々な子や親御さんに面白い小説の話をしてきました。
(勝手にではありますが、司書の先生と仲良くなり、図書室の番人みたいなことをしていました。)
もちろん相手の興味に合わせておすすめしますが、本書をすすめることが多いです。
帯に「伊坂幸太郎を読むならまずはこれ」とありましたが、初めて読む小説はこれとしたっていいと僕は考えています。
本書の魅力はたくさんあって、まずストーリーの組み立てが面白い。一部では伊坂方式と呼ばれる構成をしている。
大きな筋が二本あって、家裁調査官の武藤の話と盲目のイケメン、成瀬の話が交互にすすむ連作短編集となっている。
どちらにも共通して陣内というひょうきんなやつがでてくる。本書は陣内を楽しむ小説と言っても過言ではないだろう。
とにかく陣内の破天荒な行動が楽しいのだ。
成瀬が陣内と一緒に銀行強盗に巻き込まれて人質になったときにビートルズの「ヘイ・ジュード」を唐突に歌い出すのは狂気じみているが、彼なりの優しさゆえだ。盲目の成瀬に洋服を選んでもらうことなどから成瀬が「陣内は普通だね。」と語るシーンは感動的ですらある。
武藤のパートでは家裁にやってくる子どもにまつわるストーリーが展開される。家裁調査官の仕事を僕は詳しく知らなかったが、武藤が詳しく説明してくれたし、陣内は駄目親父の子どもだから非行に走ると暴言を吐くことでバランスをとっている。陣内が子どもと口喧嘩をする様子も愉快だ。
本書が子どもにおすすめな理由は大人vs.子どもが陣内を介してユーモラスに表現されていることだ。
陣内は時に奇蹟を起こし、駄目親父をカッコいい大人にする。かと思えば、ゴールデンレトリバーを犯罪に使おうとしたり、実の父親を顔が見られないように正面から殴ったりとめちゃくちゃだ。(顔を見られないように正面から殴るという謎は本格ミステリーだ。)
どちらかといえば陣内はやばい人だが、子どものような大人が楽しそうにめちゃくちゃやる様子は大人は楽しいんだよというメッセージを与える気がする。
もちろん、犬を使って人の荷物を盗むことは犯罪なので絶対やっちゃいけないけどね。
何度も読んだせいか濡れたことがあるのかわかりませんが、表紙がボロボロです。しかし、表紙には薄くて透明なフィルムがかけられていることに気付きました。
新たな発見がとても嬉しいです。