「NNNからの使者 猫だけが知っている」 矢崎存美
これぞ猫好きの人が買わされてしまう小説。
もう読んでるときはニヤニヤしっぱなしで外で読むのを控えたほど楽しかった!
随所に遊び心があって、
まずはNNNの読み方。これはねこねこネットワークとも読むが、ぬこぬこネットワークとも読む。
なにがぬこぬこしているかは分からないけれどなんか楽しいのは伝わってくる(=^ェ^=)
そしてNNNの説明。この組織は猫好きや猫を飼いたいと思っている人、あるいはNNNが優良飼い主と認めた人へ猫を派遣し、一生世話をさせ猫の下僕として生きるように画策する、と言われている秘密組織のこと。
と、あとがきにこれらが載っている。ユーモアのセンスのよさが光っている。
恐らく組織の幹部クラスかボスなのだろう、三毛猫のミケさん(下の写真の真ん中)がいい味を出している。
本書はミケさんに目をつけられた人がなんだかんだで猫を飼うことになり、飼い主も猫も幸せになるというストーリーの短編集だ。
特に印象に残っている猫同士の会話がある。
とある子どもが気に入った野良猫の子どもがいる。「(その子に飼ってもらうために)何をすればいいんでしょう?」
ミケさんが答える。「かわいがってもらうようにする」
「媚を売れということですか?」ちょっと眉をしかめてしまう。
しかし、ミケさんのこの質問の答えが実に猫らしい。
「いや、そこまでは。自分の機嫌のいい時は、愛想よくしようねってこと」
このミケさんの答えには猫に対する愛と人間に対する敬意のようなものを感じた。あと筆者と猫観(猫はこうゆうとこあるよね、こう考えていそうだよねと感じる人間の見方や価値観のこと。僕が作った言葉。)が合いそうな気がして嬉しかった。猫は自分勝手なのが魅力です。
実家の家族は母以外はみな捨て猫を拾ってしまう。そして母に怒られるのだが(結局育てるのも、一番可愛がるのも母だった)、それもミケさんが手配してくれたことなのかもしれないなと今になって思う。
新刊で買ったとき、帯にもっふもっふの猫小説とあった。もっふもっふという言葉に弱いのは僕だけじゃないと信じたい。
僕のグルメ本
「妖怪アパートの幽雅な日常」 香月日輪
本書は学校の図書室に置かれがち。
さわやかだけじゃない若者の複雑な心境も扱うところが妙な味を出している。
主人公の夕士は進学にあたり妖怪アパートに住むことになった。
そこでは妖怪や除霊師たちとの生活を共にすることとなる。
成長していく夕士を見ているのもとても面白いのだが、僕はこの本を最高のグルメ本として認識している。
なのでここからは本筋から大きく外れます。
本書の魅力の一つにるり子さんという給仕さんの方が作る賄いが最高に美味しそうなのがある。
そもそも朝・夕食付きで家賃が25000円だからうらやましい。
夕士がアパートで初めての夕食がトンカツと木の芽の胡麻和え、冷や奴にキュウリのぬか漬け。山盛りご飯と味噌汁もある。
夕士は山盛りご飯を二杯食べ、除霊師の秋音はご飯を四杯も食べる。
徹底した和食からるり子さんのセンスの良さが伺える。
朝はアジの開き、ジャガイモと玉ねぎの味噌汁、ひじき、ベーコンエッグ。美味しい野菜は妖怪たちが作っているから新鮮とのこと。
これらを主人公たちがとても美味しそうに食べるからこっちもお腹が空く。
僕の大好物がごはんとジャガイモなので、これを読んだ時は家で焼肉丼とジャガバターを作ることになった。
そしてるり子さんに対する思いが夕士も僕も高まったときに秋音からるり子さんは「手だけ」だと伝えられる。
空中に白い手が浮かぶ様子は恐怖だが、るり子さんだからかとても可愛くも思える。
このシリーズは全10巻の文庫に加えてアニメ化、マンガ化までしている。
今のところだが、文庫の①巻はとても怖かった。
皆さまにとってのグルメ本はありますか?
レシピ本や旅行雑誌もグルメ本として最高ですね。
読んでいるとあるいは、眺めているとお腹が空く。人の感情や胃袋を揺さぶる本は最高の本です。
「ふたえ」 白河三兎
令和になりましたね。これからも素晴らしい本とたくさん出会えると思うとワクワクします。
また、このブログを通じて出会えた人に心から感謝致します。
さて本書は令和に切り替わったと同時くらいに読み終えた。令和の最初にこの本を読めていてとてもラッキーだ。
本書の背表紙には二度読み必至、どんでん返しの青春ミステリーと書いてあったが、僕は大抵の場合そのような言葉は信じない。
必至とか必ずなどの強い言葉はハードルを上げるだけだと感じてしまう。
しかし、本書はその言葉を使ってよいと思った。現に読み終えた後、最終章をもう一度振り返り、30分ほど唸ってしまっていた。
あの時……あいつが……だからああいう表現で…… しかし……うーん……あそこでか……。
ストーリーとしては女子なのに自分のことを俺と言うし先生と平気でもめるし、最初の挨拶で「おまえらなんかと仲良くする気はないから。」と言う、とにかくやばいやつが転校してきた。
クラスでひとりぼっちの人達とその転校生が同じ班になり、修学旅行先の京都で問題を起こしまくる。
みなさん経験あると思うが、先生からは好きな子同士で班を組めと言われる。
そこで組まない子とは好き同士ではないということになるし、周りの目がどうしたって気になる。
僕の場合は席でじっとしてて声をかけられたとこに入る、なんてしていました(笑)いや(泣)かな。
第一話が班のメンバー紹介と片想いの話だったので、あまりミステリーらしさはなく、さわやかさがあった。
他にも舞妓に変身する話や将棋で勝ちたい話、家出や先生に対しての片想いの話もある。
どれも謎の要素はありつつも、自意識過剰で自分勝手で恋に恋する様子は正しく青春そのものだろう。
僕が一番好きなキャラは担任の先生かな。
一見ちゃらんぽらんなんだけど、実は生徒思いで、というか正直で、不登校の生徒に「俺の評価のために学校に来い」と言える先生で好感が持てた。
「大人なんて利用してしまえ」という言葉もあり、何故かそういう大人は信用できる気がするから不思議だ。
(そういえばマンガの「ルーキーズ」の川藤先生も同じことを言っていた。)
さわやかだっただけに最終話であの子の秘密に驚かされる。確かに本書は二度読み必至だった。
知らずのうちに白河三兎ワールドに引き込まれていたな。好きな作家の一人になりそうな予感がして令和初日から幸せでした。
「陰日向に咲く」 劇団ひとり
この小説とは高校生の時に出会って以来、転職や失恋のたびに読んでいる大切な一冊だ。
映画もとても良かったが、小説の方が数倍楽しめる。
何より劇団ひとり先生の筆力がすごい。今までたくさんの芸人が書いた小説を読んできたがそのどれもが「俺はこんな素敵な話書けます」「俺は本当は頭いいんだぜ」というドヤ顔が文の背後に見えてしまう。ひとり先生は「俺は俺が楽しいと思うことを書くかんな〜」みたく楽しんで書いている様子が目に浮かぶのがいい。
一冊が大きいコントの台本のようだが、いたるところにユーモアと感動が散りばめてある。
モーセの正体、ミキとの友情、アイドルを追っかける理由、オレオレ詐欺電話の行く末、米兵を殴る話。
特にオレオレ詐欺の話が良かった。
(映画では岡田准一くんの話です。)
稼いだ金をパチンコに使ってしまい、同僚たちからも借金をするクズ男が主人公の話だ。
序盤は競馬の必勝法をやる。これは無限にお金があれば可能な技かもしれないと思った。
案の定負けた男はオレオレ詐欺をやろうと決意する。
しかし、電話先の老婆と奇妙な出会いをする。
果たしてお金を騙し取ることができるのか!?
僕は借金をしたことはないが、色んな金融会社から借金を繰り返すと限度額が上がり、レベルアップしたような気分になるというのは少しわかる気がした。
一度踏み込んだら抜けられなくなる沼みたいなものなのだろう。恐ろしい。
この小説には日陰を歩いてるような人ばかり出てくるが、それでも辛いことばかりではなく希望もある。
誰もが人生陰日向で、良いこともあれば悪いこともあると感じさせてくれる。
ひょんなことから幸運なことが起こることもある。
自分の人生もそうであったらいいなと思うととても励まされる。
泣けるところもあるからこの小説は素晴らしい。
小説を初めて読む人にオススメです。