「デッドウォーター」 永瀬隼介
本書は以前に紹介した『19歳 一家四人惨殺犯の告白』の続編とも言える内容です。
そんなわけで『19歳〜』の復習です。
『19歳〜』は死刑囚の正体に迫ったノンフィクションでした。著者の永瀬さんは獄中インタビューや手紙で犯人の心情を明かしていくものの最終的には「こいつは(犯人は)クズだ。」とか〈理解不能〉とも書いているように犯人を見放してしまいます。
果てには永瀬さんは自律神経失調症になって入院してしまい、犯人の心情の解明とはなりませんでした。
つまりは『19歳 一家四人惨殺犯の告白』は単行本と文庫の二回の出版を経ても未完成のままでした。
しかし、永瀬さんは本書の中で死刑囚と対決して決着をつけています。
もちろん現実で起きてしまった事件が小説で決着とはいきませんが、永瀬さんがプロの作家として生きていく決意が詰まったこの本はとても特別なものとなりました。
18歳当時、五人の女性を強姦した上で殺し、死刑判決を受けた稀代の殺人鬼・穂積壱郎。その穂積を取材し浮上を図る事件記者の加瀬。
穂積はとても頭が良く、塀の中にいながら多くの人を操っている。そして加瀬と深い関係にあった。
厚い壁の中で保護され、死刑への恐怖心を全く抱かない殺人鬼に復讐することが可能なのか?
本書の魅力は大きく分けて三つ。
一つ目はボクサー・村越の存在感。
彼の父は穂積と隣の房にいたことがあり、村越は加瀬の取材対象だった。
本書に何度かある、ド迫力の格闘シーンは体を熱くさせるだろう。
二つ目は死刑制度だ。
死刑制度を説明した小説はいくつかあれど、これほど詳しく、それでいて刑務官の心境まで書けているものは本書だけだろう。
死刑のシーンだけで10ページ以上は使うし、刑務官の給料も書いている。緻密な取材に頭が下がる。
三つ目は「復讐」だ。
皮肉なことに今の日本の死刑囚はとても守られた立場にいる。刑務所とは違い働かなくてもいい。
そんな守られた環境にいる穂積を加瀬と村越はどう迫っていくのか。なぜ、復讐したいのかも要注目だ。
久しぶりに全編男臭い小説の紹介でした。
僕はていねいに事実を描く作風が好きで永瀬さんのようなライター出身の作家をつい応援してしまいます。
本書の内容もとても面白いのですが、永瀬さんがしたいこと、したかったことに注目するのも面白かったです。