スーパーノヴァの読書日記

主に本について書いています。たまにドラマや音楽や映画についても語ります。気軽にコメントいただけたら幸いです。

「残穢」小野不由美

こんなに豊かなホラー小説は初めてだ。

本書には哲学、恐怖、文学が詰まっているのだ。

普段僕は小説にドッグイヤーをつけないのだが、本書にだけはつけてしまった。

逃したくない言葉がたくさんあったのだ。

 

物語はシンプルでいて、身近に感じるものだった。ゆえに怖いのだが。

(小野不由美さん本人のことだと思われる)作家のもとに心霊体験が書かれた手紙が寄せられる。

作家はその心霊現象について調べるという物語だ。

心霊現象は誰も居ないはずの家にだれかの気配を感じたり、サッサッという音がしたりだ。

現象自体はリングの方が数倍怖いだろう。テレビから出てくる女性が怖くないはずがない。

 

本書特徴のひとつは怖さの表現が我が身のように感じられること。

これは書き方のせいもあると思うのだが、リアリティがすごいのだ。

誰もが一生に一度あるかないかの経験であろうことのひとつに家の購入がある。

もし、その家が心霊現象のある家だったらどうするか強制的に考えさせられた。

貞子のような強烈な心霊現象だったらすぐに家を出るだろう。

しかし、僅かな物音や気配など、我慢できる範囲の心霊現象は耐えようとしてしまうかもしれない。

考えるだけで恐ろしい。そいつの存在を認めながらも共に生活が続くということだ。

これが本書の恐怖の部分。サッサッの音の正体が本書で一番怖いのだが、それはおぞましすぎて書く気にならない。

 

哲学の部分はドッグイヤーをつけたところから。

《夫は私以上の心霊現象完全否定論者だが、麻雀に関してだけは、「運」や「流れ」などと言う非合理な言葉を大真面目に口にする》

人間の矛盾を表している一文だが、同じように思う方は多いことだろう。作家も信じてないのね、と心の中で突っ込んだが、それでも調べようと考えるその姿は科学者であり、哲学者であり、そして作家の鑑だ。

 

文学の部分は2つ。

《怪異が事実存在するなら、これは特異とは言え「自然現象」の一部であるはずだ。自然現象である以上、統合性はあってしかるべきだと思う。》

心霊現象にも動機やきっかけがあるはずだと考える人はとても信頼できる。気がする。

もうひとつは本当は心霊現象など起きていないのかもしれないと考える場面。

《つまりは、虚妄、なのだと思う》という一文。

虚妄(こもう)は仏教の用語で真実の対語のことらしい。迷いから起こる現象や、本当でないものを本当だと思い込むことをさす言葉だ。

あまり、有名ではない言葉を世に出す、または作り出す。これは文学者としての役目だと、僕は思う。

 

友だちがうちに来たらこの本を貸してあげよう。そしてそのまま引き取ってもらおう。

この本を家に置いておくのは怖いが、恐怖を伝染させたい欲求がある。(意地悪かな?)

あと、家を買うときは気をつけよっと。

その前にまずはお金を貯めよう!

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