スーパーノヴァの読書日記

主に本について書いています。たまにドラマや音楽や映画についても語ります。気軽にコメントいただけたら幸いです。

僕とぼぎわんとの戦い

「ぼぎわんが、来る」 澤村伊智

 

映画の予告でホラーだとは知っていた。

しかし、本を買うときに背表紙を読まない最近の僕は本書がミステリーである可能性も視野に入れて読み始めた。

角川ホラー文庫には警察ミステリーも多いからだ。

そして勝手ながら僕対ぼぎわんの戦いを始めることにした。

僕を怖がらせたらぼぎわんの勝ちで、怖くなかったら僕の勝ちだ。

賞金はないし誰も褒めてくれない戦いだ。もしぼぎわんが勝つならば、僕が澤村伊智さんのファンになるだけだろう。

 

僕には今までの経験を活かした先読み能力がある。どんな本かがわかれば怖さは減る。

しかし、「ぼぎわんが、来る」とはしてやられた。とても、完璧なタイトルだ。読点の打ち方も好みだ。

ぼぎわんとは何かずっと気になるし、これだけでは意味がわからないのが、怖い。と言ったらおしまいなので、怖そうだ。

弱点としてはぼぎわんの説明でページ数を使うところだろうか。だが説明は多分僕は好きだ。

実際、ぼぎわんはヨーロッパの妖怪「ブギーマン」がなまって伝わったものと定義付けられていた。この解釈はとても面白い。

目次を見ると章は3つ。これはとても重要な情報だ。

章が多いと死者がたくさんでるパニック系で章が少ないと重厚感のあるホラーである可能性が高い。

「ぼぎわんが、来る」は死者が少なそうなので、死にそうな人をマークすれば怖さは減るかもしれない。

 

先に総括を書くとものすごく怖かった。圧倒的にぼぎわんの、勝ちだ。

腕を噛みちぎるなど正気の沙汰じゃない。

ぼぎわんの明かし方、正体が怖かったのはもちろんのこと、章が変わるごとに語り手が変わりジャンルが変わっていく。

たくさんの登場人物がぼぎわんに関わりぼぎわんについて語る。あまり疑いや検証は持たずにぼぎわんという存在を受け入れるのが、怖い。

ずっとぼぎわんが来そうな気がするのが、とても怖いのだ。その辺りの見せ方と書き方が見事だ。

この後、詳しく書いていく。

ネタバレが、来るだ。

 

 

ぼぎわんは先ほど書いたが、ブギーマンがなまったものとされている。

家を訪ねてきてはその家の者を山へ連れて行く妖怪だ。

ぼぎわんはだんだんと成長していくのが面白い。

知人の声を話したり、メール機能を使ったりだ。

ぼぎわんの正体が明かされていく第3章。

子宝温泉の秘密や口減らしがあった歴史にも触れている。

ぼぎわんはたくさんの霊能力者を倒していく。最強の妖怪だが、何か弱点があるに違いない。

 

本書は章が変わるごとに世界が変わっていくのも面白い。

第1章では育メンのパパ・秀樹が迫るぼぎわんとの戦いを書いている。

妻の香奈と娘の知紗を守るため奮闘する秀樹を応援したくなる。

ぼぎわんが迫る中、御守りを集めたり、霊能力者に助けを求めたりと秀樹はアクティブに動く。

ここでオカルトライターの野崎と霊能力者の真琴が仲間になるが、真琴からぼぎわん対策のアドバイスが、《家に帰って奥さんとお子さんに優しくしてあげてください》というものだった。

ここで本書の放つ空気感が変わったのがわかった。ただぼぎわんとの戦いを描くだけじゃないなと、感じた。

第2章は奥さんの香奈が語り手だ。

ここでは女性作家が得意とするような、妻としての苦悩、秀樹の正体が描かれている。

一方向からしか描かれないので、仕方ないのかもしれないが夫婦の問題には気づけなかった。

香奈さんは大変だったろうが、「疑心、暗鬼を生ず」というやつだ。心のすきに妖は近づく。

第3章は野崎&真琴の姉によるぼぎわんとの戦いだ。

ぼぎわんの正体に迫り対決する。

ぼぎわんとの戦いは人の悪意や、時代背景によるひずみなども深く関わる。

野崎のオカルトライターとしての考え方やひらめきがとても好感が持てる。

「ぼぎわんにも行動原理や動機がある。」

これは心霊研究してるからこそいえるのだと思えた。

 

ラストには賛否両論あるが、これは真琴を救う物語でもあった。

真琴が元気ならばそれでいい。そう思えた。

あと、澤村伊智さんの本を集めよう。そう決心した。

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ひとつとても腹が立ったことがあった。

香奈は知紗と知人夫婦の家で食事をする約束をしていたが、秀樹は早く帰れることになったから約束を断れと香奈に強要する。

下は秀樹のセリフだ。

《大丈夫だよ。パン工場勤務で借家住まいの人と切れたって、知紗には何の影響もないさ。心配しないでいい》

このような人を見下した発言は、僕は許すことができない。

知紗にその価値観が引き継がれたら、やがて親を見下すようになるかもしれない。

秀樹の心には大きな妖が住んでいたのかもしれない。