スーパーノヴァの読書日記

主に本について書いています。たまにドラマや音楽や映画についても語ります。気軽にコメントいただけたら幸いです。

「悪人 下」 吉田修一

さて、続きです。

幕間で考えたところ、登場人物を深めていったら、本書の味が濃くなるのではないかと思いました。

ここからは主要登場人物を1人ずつ書いていきます。

ここからはネタバレが多数あります。

 

 

⚪︎清水裕一

土木作業員の彼は風俗嬢を真剣に愛する側面がある、まじめな男です。

この誠実さに風俗嬢は引いてしまいますが、僕からの好感度は急上昇です。

事件は出会い系サイトで出会った女性・石橋佳乃に会うときでした。佳乃とは前にも関係を持っていました。

佳乃との待ち合わせの際、彼女は別の男の車に乗っていたので追いかけます。

その先に佳乃は山中で捨てられていましたが、裕一は助けようとします。

しかし、佳乃はイヤイヤ期だったのか、「あんたにレイプされたって言ってやる」と暴れます。

裕一はそんな佳乃の首を締めて殺します。冤罪に巻き込まれるのを恐れたということもあったのでしょう。

警察の捜査力を知っていれば、信じていれば、殺す必要はありませんでした。本当に残念な男です。

⚪︎石橋佳乃

事件の日は裕一と待ち合わせをしていましたが、偶然、想いを寄せていた男・増尾圭吾と出会います。

そして、アプローチのすえ、増尾とドライブに行くことになります。

僕は特にこのシーンが印象的です。こんな偶然がなければ、事件は起きませんでした。

車の中では佳乃はしゃべり続けます。それが彼女のアプローチ方法なのでしょう。

しかし、好きな男性がいながら、裕一と関係を持ち、更に約束を破り、人を傷つける彼女は、悪人です。

⚪︎増尾圭吾

圭吾は人気者で佳乃など、簡単にあしらえると思っていました。

事件の日は佳乃のナンパを受けてドライブに行きますが、うるさい佳乃を疎ましく思い、山道の真ん中で蹴り出します。ここでの一文が特に印象的です。

《 とつぜん、「こういう女が男に殺されるっちゃろな」と増尾は思った。本当にふとそう思ったのだ。

こういう女の「こういう」が「どういう」のかは説明できないが、間違いなく「こういう」女が、あるとき男の逆鱗に触れて、あっけなく殺されるのだろうと。》

映画で佳乃役を満島ひかりさんが演じますが、このシーンを観たとき、僕も佳乃にイラついてました。

圭吾は間違いなく悪人ですが、圭吾の気持ちが少しでもわかってしまう僕も悪人です。

⚪︎石橋佳男

佳乃の父親です。本書の登場人物で数少ない善人です。

そんな佳男は娘の死の原因を作った増尾にスパナを手に取り、会いにいきます。

気持ちはわかる気がしますが、スパナを持ち歩くのは侵入具携帯罪です。

佳男の無念を思うとき、裕一よりも増尾の方を許せなくなってしまいますが、本当に悪いのは裕一です。

増尾の方を悪く見せるのが、吉田修一さんのテクニックです。

⚪︎馬込光代

光代は事件後の裕一と出会い系サイトで出会います。

「ホテルに行こう」とストレートに誘う裕一にグッときたみたいで、すぐに仲良しになります。

裕一は殺人を告白し、自首しようとしますが、それを光代がとめます。これも犯罪になりそうです。

2人は逃避行と言う名のデートをしますが、ついに警察に追い詰められます。

イケメンとの逃避行だからこそ、燃えるような恋に思えたのではないかと邪推する僕は間違いなく悪人です。

ラストシーンは感動的なのでしょうが、当時の僕には裕一のとった行動の意味が理解できませんでした。

最近ようやく、裕一が最後になにをしたかったのかわかりました。

 

本書は今なお僕の僕の心に住み着く、名作です。

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