初期の頃の伊坂作品の紹介です。正直この頃の伊坂作品が1番好きで、本書は何度も読みました。
多角的な視点を伊坂マークを使い描き、そして巧みな伏線の回収には毎度驚かされます。
毎回のように弱い者を主人公に添えますが、どこかで報われます。まるで、僕が救われるような錯覚に落ち入るのも気持ちがいいです。
本書では弱い者、悪い者しか出てきません。
並走する4つの物語が最高時速240kmで駆け抜けていきます。それは1枚の壮大な騙し絵のようです。
さてそれでは4つの物語を個別でみていくこととする。
A、空き巣に入ったら必ず盗品のメモを残して被害者の心の軽減をはかる泥棒の黒澤。
何を盗まれたか分かれば、不安は少ないという理論を持つ黒澤は他の伊坂作品にも度々出てくる。
伊坂幸太郎さんは泥棒が好きなのかもしれない。
B、新興宗教の教祖にひかれている画家志望の河原崎と、指導役の塚本。
彼らは神を解体しようとする。単なる死体損壊も宗教がからめば、神聖な行為となる。
C、それぞれの配偶者を殺す計画を練る女性精神科医・京子と、サッカー選手の青山。
彼らが語る完全犯罪についてが面白い。ドンと撃って沈めればバレないだろと。
そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないなって思った。
D、40社連続不採用の目にあっている失業者の豊田。
彼は何故か芝犬を拾うことになる。
僕のお気に入りの人物だ。無職であることは痛みが常に伴なうが、ダメなことではない。
何故なら彼には・・・後で書くことにする。
それぞれが別の道を歩きながらも意外なところで結びつき、予想もしないところで出会い、ときに修羅場、ときに同窓会となる。
軽快な会話と持ち前のユーモアは健在。段々と繋がる話に爽快感がある。
2度読むこと間違いなしの絶品ミステリーだ。
最後にD、豊田のパートでの気に入った一文で締めます。
それは彼の強さと弱さを的確に表す一文です。
《犬と拳銃を味方に無職の人間に何が行えるのだろうか、と呆れた。職が無いのに、犬と拳銃はある。何なのだ、これは。》