「悪魔のいる天国」 星新一
タイトルがとても良いですね。
矛盾したタイトルですが、星新一さんの手にかかれば素敵な話が生まれそうな気がします。
今回は本書の中から二つの話をネタバレ全開で紹介したいと思います。
一つ目の話はできるだけ本文の言葉を使います。
「宇宙のキツネ」
宇宙研究所にキツネを連れた男が現れた。
彼いわくこのキツネは化けることができて宇宙探索に向いている。馬になったり豚になったり、挙げ句の果てには美女になってみせたりもした。最終的には食べてもいい。
これはいいと試しに操縦士がひとりえらばれ、キツネを連れて、宇宙船で飛び立った。
一週間後操縦士が降りてきた。人々は興味津々。
「どうだ。役に立ったか?」
「ああ、まあまあだね」
「味はどうだったか?」
「なんとか食える、といったところだね」
そのうちひとりが操縦士の尻あたりを指差して聞いた。
「しかし、尻につけている、その変なものはなんだい・・・」
オチが秀逸だ。操縦士は食べられてしまったのだろうか。
ちょっと気取ったことを書くと一人と一匹での探索だから悪さがしやすいし、一週間という時間を設けたのは言葉を覚える為だったのかもしれない。
星新一さんはこの辺りのさりげない描写がすごいのだ。
もう一つは本格ミステリのような話。
「交差点」
刑事が語り手で交通係の警察官と話していると事故が多発する交差点があるとのこと。なんでも交通量は多くないし、見通しはいいのに事故が起きてしまうのだそう。事故の目撃者は被害者がふいに自分からバスに飛び込んだと証言している。
そのような会話をしていたところを新聞記者に聞かれてしまった。記者はスクープ欲しさに現場に張りこむことを刑事たちに宣言し、現場に向かう。
大衆の要求が、記者をあんな風にしてしまうのだろうなどと話していると電話があり、記者の彼が例の交差点でトラックに轢かれて亡くなったことを知る。
交通係の警察官は遺品のカメラを持って帰ってきて、フィルムを現像してみると、例の交差点の写真だった。そこには17歳ぐらいの美しい女の子が写っていた。しかも笑って。
この子を撮るために不注意になって事故にあったのだろうと思った。しかし、この女の子はトラックが来るのがわかっていたはずなのに注意しようともせず、楽しそうに笑っているのは妙だと思い直した。
罪にはならないとしても厳重注意が必要だと思い、現場で彼女を探す。聞き込みをしてもなかなか見つからなかったが、遂に見つけたので、走って追いかけた。
交通係の警察官はそっちには誰もいないぞと叫んでいるが、この女が目に入らないのはやつがどうかしている。
「おい。きみ。待ちたまえ」
「あの、あたし・・・」
「いったい、きみはだれだ」
「あたし・・・。死神よ」
と答えて、楽しそうに笑った。あの写真のように。
私は思わず、あとずさりした。だが、私のすぐうしろには、たまたま工事のためふたが外されていた、マンホールの深い穴が待ちかまえていた。
本書は1961年に発表されたが、新聞記者の不幸を喜ぶ体質を皮肉っている。
50ページくらいのミステリーとしてもいい話だが、7ページでまとめている。
お見事としか言いようがない。
星新一さんの話を今まで書けなかったのはネタバレせずには魅力を伝えられない自分がいたからです。
毎日書くことがなくなったら一日一話書いて凌ごうかな。
冗談ですよ(笑)それだけはしません。