石田衣良さんについて
「1ポンドの悲しみ」 石田衣良
石田衣良さんは「IWGP(池袋ウエストゲートパーク)」シリーズで有名な作家です。
若者や女性を中心に人気があるような気がします。
しかし、僕は石田衣良さんの本を十作以上は読んでいますが、あまり良い印象を抱けずにいたところ本書で覆してくれました。
十数年間のことですが、今でも鮮明に覚えているとある書店でのOL同士の会話があります。
「石田衣良の小説って読んでも何も残んないよね〜。」
「分かる分かる〜。なんか頭からすぐに抜けていく感じ。」
とこんな感じでした。
しかし、僕はOLさんたちがネガティブなことを言っているようには感じませんでした。
それはポジティブなメッセージもあったからです。
OLさんたちの会話からわかることは一冊以上は石田衣良さんの本を読んでいるということ。
どこかでアンケートを取って欲しい気もしますが、読んだことのある作家ランキングなるものを作ったときには東野圭吾さんや赤川次郎さんを脅かす存在になると思います。
読みやすく手に取りやすい作家さんとして、最前線を駆け抜けている作家さんだと思います。
さて本書は石田衣良さんの得意分野の一つで恋愛短編集です。
様々な男女の組み合わせ、あの手この手を尽くした障害などはありきたりですが、ひとつだけ特異な話がありました。
それが表題作である「1ポンドの悲しみ」でした。
最初のシーンで男女がホテルに二人。
名古屋で会う二人は遠距離恋愛中だ。
ずっとイチャイチャしてから物語は後半へ。
新幹線のホームで別れを惜しむ二人。
「この世界は僕たちの悲しみが動かしているんだ。だってさ今ここから見えるものがすべて悲しいもの」
と悲しみながら物語は終わる。
恋愛短編集でこの流れは初めて出会いました。
何の山場も作らずにほとんどが濡れ場のシーンだけで終わる。
こんな終わり方、こんな書き方もありなんだと思い、衝撃を受けました。
何も起きないけど、胸にしみる。
この書き方は勇気がいると思いますし、本当に実力がないと書けないと思います。
今回は今でも記憶に残る短編集の紹介でした。
他にも「デートは本屋で」の話も素敵でした。
全てで10編のショートストーリーが紡ぐ一冊は本棚に彩りを加えること間違いなしです。