文庫X(「殺人犯はそこにいる」 清水潔)
副題「隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件」
本書は文庫Xとして中身が見えない本として世に出てきました。
それでも大ヒットして、ノンフィクション作品の教科書として名が知れてるのは清水潔さんの力と執念のおかげなのだろうと思います。
僕は今でもこの本のことを考えるだけで鳥肌が立ってしまいます。被害者が受けた痛み、えん罪で捕まった男性の悲しみ、ずさんな捜査に対する憤り、そして真犯人に対する怒り、様々な感情がこの本に詰まっています。
本書を読まないにしても本書で扱う事件のことと清水潔さんの功績を知って欲しいと切に願います。
本書を世に出せたことが清水潔さんの功績だと思うからです。
本書が扱う事件は群馬県や栃木県で起きた連続幼女誘拐殺人事件。
この中にはまだ消息不明の少女(当時)も含まれる。
警察はDNA捜査を駆使して総力で犯人を捜すものの一向に見つからず、この事件での被害者は5人となってしまっている。
やがて一人の男が逮捕されるが、清水潔さんはえん罪を疑い捜査を始める。
この捜査のずさんさと強引さには怒りで手が震えてしまった。
警察は取り調べで男性の耳元で13時間怒鳴り続けるし、証拠はあるんだぞという嘘をついて自供させた。
さらに家宅捜索では男性が持っていたAVを押収して幼女趣味があったと記者に報道させた。
(特にロリコン趣味と感じさせるものではなく、枚数が多い程度のものだったにも関わらず、マスコミはロリコン趣味の男を逮捕!と発表している。)
ここまでさせたのは不幸な偶然があって、えん罪で捕まった男性と犯人はDNAの型が一致していたからだった。
DNAについては本書の中核をなす部分なので、相当詳しく説明してくれている。清水潔さんも相当勉強したみたいだ。
清水潔さんは何とかえん罪を暴いたがそれで終わりではなかった。
釈放された男性からお礼を言われたが、こう返している。
「あなたが刑務所にいると、どうしても辻褄が合わないんです。私が困るんです。だから排除させていただきました。」
始めから真犯人にしか興味なかったとも言っている。
いつまでも無実の男が捕まっていては真犯人に対する捜査は行われない。だからといって検察にえん罪を認めさせるのは相当大変だったはずなのに。
さらに、清水潔さんはえん罪を暴く捜査の過程で真犯人にたどり着いている。直接犯人と対峙して取材までしているし、DNAまでとっている。
そのDNAは殺人事件現場でとれたものと一致してかつ目撃情報のあった男の容姿とも一致するのだが、合法の捜査ではないので逮捕はできない。
犯人を警察もマークしているだろうに逮捕しないのはえん罪での誤ちを認めたくないからなのでは?と疑ってしまう。
普段、味方であるはずの警察や検察にも腹が立ってしまうのは仕方のないことだと思う。
最後にですが、真犯人はまだ捕まっていません。
だからこそ本書のタイトルにもある「殺人犯はそこにいる」なのだと気づきました。
犯人にも人権があるので、名前や住所などの詳細は書かれていませんが、二度と悪さができない程、外を歩きたくなくなる程には犯人のことが書かれています。
僕たちがこの事件を忘れない事、本書を読むことが犯人に対しての牽制にもなるのではないかと思います。
その意味でも本書の果たす役割はとても大きいです。
殺人犯は僕のすぐ隣にいるかもしれません。絶対に許してはいけないです。また鳥肌が立ってきました。