「重力ピエロ」 伊坂幸太郎
「春が二階から落ちてきた」で始まる本書は伊坂作品の中では珍しい書き方をしている。
語り手は一人だし、特段驚けるトリックも使っていない。
伊坂幸太郎は伏線の魔術師とも言われるが、本書では控えめにしているように感じる。
ただやっぱり伊坂作品は初期の頃に限ると言われる程の実力は遺憾なく発揮している。
グラフィティーアートと遺伝子の関係。放火との繋がり。兄弟の絆と家族の秘密がキーワード。そのどれらも取り合わせや構成の配置が見事で全てが感動に結びついている。
タイトルは「重力ピエロ」という一見意味がわからなく感じるが家族の絆を示す上で重要な役割を担っているし、最初から最後まで兄が語り手という伊坂作品では珍しい作風も放火事件と家族の繋がりを表現する上でとても重要な効果を出している。
偶然に頼りすぎのエンタメ作家との悪口がささやかれるなかにあって、文学の風情あふれる雰囲気が読んでいてとても落ち着くし、事件自体に必然性をもたせる手法には伊坂作品の奥深さを感じるものとなった。
見どころが多すぎて語りきれないのだがサーカスを観ている時の家族の会話と兄が悪いやつと話したときの内容が印象に残っている。
あと、連続放火事件はなぜ起きたのか、何のために起きたのかを考えるのがとても楽しかった。
伊坂作品は映画化したものが非常に多く、本書も映画化している。
映画化した当時、僕は本書を片手に映画館へ走った。
原作本を受付の人に見せると200円引きというキャンペーンがあったからだ。
嬉々として持っていったものの、受付の人がキャンペーンを把握しておらず、僕が一から説明するハメになった。
原作本を見せた時、受付の人がキョトンとした表情をしていたことが今でも忘れられない。
一人で映画館に行きづらくなったエピソードでした。
本書は殺人のシーンが苦手という人にも読める内容になっているのではないかと思います。
ただ、やっぱり目を背けたくなるようなシーンもあるし、吐き気がするほどの悪人も出てきます。
悪人が語る想像力についてが筆者が一番言いたかったことのように感じました。それは、そういう風に考えるやばい奴もこの世には存在しているよというメッセージなのかもしれません。