「君にささやかな奇蹟を」 宇山圭佑
宇山圭佑さんは稀代の恋愛ストーリーテラーだ。
脚本家としても有名だが、小説は普通の感覚が冴え渡り突飛な設定でも共感できるものに仕上げていると思うのだ。
僕は恋愛小説が好きでたくさんの作家さんの多種多様なものを読んできた。
タイムスリップやよみがえり、猫と人間の恋もあるし、不倫や年の差なんてのはもはや定番だ。
その中で面白い恋愛小説の条件はなんだろうかと真剣に考えたことがある。
まだまだ変化していくとは思うが二つ見つけた。本書はそれを想像を超える範囲で満たしている。
一つは主人公も筆者も普通の感覚を持っていることだ。
大抵の場合、男か女のどちらかに病気があったり、どちらかが奇天烈な行動をしたりするパターンが多い。その時にはどちらかがツッコミ役や支える役にならなければならない。
「君の膵臓をたべたい」もそれでヒットしたのだと思う。
本書は男が本物のサンタクロースで女は普通のOLだ。
気が弱くて頼りない御曹司であるサンタとどこにでもいるようなOLが出会い惹かれ合う様子はとても微笑ましい。
サンタクロースは実在するとした設定もリアリティがある。
もう一つはハッピーエンドであることだ。
小説というものの構造上、たとえ短編であっても何らかの試練を与えて山場を作らないといけないのはわかる。
しかし、バッドエンドでは気持ちが悪い。とは言ってもこの判定を僕はゆるく考えている。後味が悪くさえ無ければいいかなと。
「陽だまりの彼女」のラストはとても良かった。
本書も身分の違いや想いのすれ違いなど、幾多の障害があった。そんな二人から目が離せなかった。
本書で重要なアイテムになるのが絵本の存在。
ヒロインの伊吹はずっと、昔に読んだ絵本を探している。
伊吹は絵本に対しての想いは人一倍強い。そんな彼女にサンタクロースの聖也は何ができるか、ラストは感涙必至だろうと思う。
他に執事のキャラっていることがとても面白かったし、なぜ御曹司の聖也はただのOLである伊吹にほれたのかを考えるのが楽しかった。
本書は僕の中で2018年に読んだ本の中でNo. 1の小説でした。
あまりヒットしていないのが寂しいですね。