「傍聞き」 長岡弘樹
GWが終わって久しぶりの勤務に疲れたのかカゼをひいてしまいました。
そんな時に職場の近くで安くて美味しいカレー屋さんを発見して、思う存分にスパイスを体に取り入れて元気になりました。
でもやっぱりカレーは実家のが一番だなぁと思いながら本書を思い出しました。
とは言っても本書はカレー本ではない。上の話との共通点は家族の話というとこくらいか。
本書は泣けるし驚けるし、ロジックの展開が楽しめる極上のミステリー短編集だ。
短編の中の一つ「傍聞き」(かたえぎき)は推理作家協会賞を受賞している。
傍聞きの意味は「かたわらにいて、人の会話を聞くともなしに聞くこと」とある。
この説明よりも本文にあった「どうしても信じさせたい情報は、別の人にしゃべってそれを聞かせるのがコツ」の方が分かりやすい。
この傍聞きを刑事の母もその娘も犯罪者も使うのだが、タイトルでこの言葉を使い、親子の会話でも使い、意味まで説明している。
なんて親切なミステリーなのだろう。しかし、ラストには思いもよらない方向から衝撃がくる。
それが感動的であったからこそ衝撃が大きかった。騙されてなお心地よいものが書けるのが長岡弘樹さんの才能だろう。
他にも消防士、救急救命士、更生保護施設の職員が語り手となり、心地よいミステリーを編む。どれも強い謎が無いのは愛がテーマのミステリーだからか。
一冊読み終えた時には少し優しい自分になれる。そんな小説です。