本書は新潮社で発売されたノンフィクションの単行本の文庫版だ。単行本を出してから四年後に文庫を出しているため、単行本を犯人が読むシーンが追加されている。
新潮社で単行本が出版されたものの、角川文庫から出版されている。文庫化にあたり、出版社から反対の声が大きかったのだ。
筆者からしてみれば反対されるのはたまったもんじゃないだろう。決して犯人の利益に繋がるものではないのだから。
あとがきにも編集者との衝突が書かれている。
それだけにセンセーショナルな事件で発表されただけで傷つくような人がいた。
出版社側も慎重にならざるを得なかったのだろう。
事件の現場は千葉県の市川。1992年に起きた。
犯人は五人家族を襲い、女子高生を除いた四人を殺害している。
本書を読んでいる時は吐き気が止まらずでなかなか進まなかった。
犯人は幼い頃に父親から暴力を受けていたこともあり、力が強い奴が偉いという価値観を持っていた。
そんな犯人が恐れるのはヤクザでこの凶行はヤクザに200万円払えと脅されてのことだった。
あまりに酷いので、詳しくは書けない。
本書の半ばまでは犯人の育ちや犯行をていねいに主観を交えずに描いている。
後半は裁判と死刑が決まったあとの犯人とのやりとりだ。
そのやりとりの最中とても衝撃を受けた一文があった。
犯人が単行本を読んで内容が違うと怒り出すシーンがある。以下は著者の感想だ。
「こいつは、やっぱり救いようのないクズだ。」
ここまで読んできて著者は犯人のことを理解したいのかと思っていた。しかし、他にも〈理解不能〉とも書かれていてこの突き放し方は作者として、してはいけないことではないかと思ってしまった。
しかし、単行本を出してからも犯人とのやりとりは続く。犯人の最後まで見て伝えたいという著者の思いは本物だったのだろう。
著者は極度のストレスから駅で倒れてしまい、三週間の入院を余儀なくされる。自律神経失調症だった。
その後に面会はできなくなり、この作品は未完成として終える。
ノンフィクションゆえの結末に心がもやもやしてこの本のことだけを何日も考えることになった。
この本を読んで以降、筆者が執筆する動機を考えるようになった。著者がしたいことを知った方がより自分の中に落ちるからだ。
永瀬さんは「デッドウォーター」という小説も書いていて、この事件の犯人と似た人物と改めて向き合い対決している。
そちらも名作なのでいつか紹介します。