旅のお供に小説
「雨と夢のあとに」 柳美里
皆さまゴールデンウィークはいかがお過ごしでしょうか?
僕は相変わらずカフェや動物園で読書を楽しんでいます。動物園ではカップルや親子連れが多くてうらやましくて泣きそうになるので、読書カフェを開拓したいと思っている今日この頃です。
このゴールデンウィークでは旅行を楽しんでいる人も多いことかと思います。
旅行の際は本を何冊持って行きますか?(笑)
それとも現地で調達派ですか?(笑)
カバンに入れ忘れても大丈夫。上野駅や品川駅など新幹線が停まる駅ナカの本屋では車中が楽しくなるような品揃えをしています。きっと。
僕は北海道に出張した時は「櫻子さんの足元には死体が埋まっている」を持っていきました。ご当地小説を読むと風情がある気がします。
でも北海道では絶対「羆嵐」を読んではいけない。考えてもいけない(と言われると考えてしまう不思議)。
ちなみに動物園では「ざんねんないきもの辞典」や猫小説を読みます。
僕が旅小説で一番だと思うのが「雨と夢のあとに」です。これに旅を想起させるシーンは少ないが勝手に旅小説と認識しています。
黒川智花主演でドラマ化も果たしていて、今までたくさんのドラマを観てきましたが、非常に面白かったです。
本書のジャンルは幻想ホラーというらしい。
父の朝晴(ともはる)は蝶の写真家で父子家庭にも関わらず撮影のためひとりで海外に行ってしまう。
娘の雨(あめ)はひとりでさみしく留守番している。12才なのにとても立派だ。母は生まれた時からいない。
10日ぶりに帰ってきた朝晴にはなにやら秘密がありそう。しかも帰ってきて以来奇怪な出来事が次々に起こるし、隣室のお姉さんもなんか不思議な感じがする。
いつもの日常が戻りつつある中、実の母親と名乗る人物が突然現れて衝撃の事実が伝えられる。
正直雨にとっては酷なことが多すぎて気の毒になる。
しかし、幼なじみの男の子と励ましあったことや隣室のお姉さんと楽しく過ごした日々は本物だ。
帰ってきてからの朝晴と過ごせたわずかな時間もきっと雨の心の糧となることだろう。
実の母を頼るのもいいんじゃないか。新しい父を利用するのも仲良くするのも自由だ。
みんな雨の味方だ。雨の成長を願っている。
朝晴の誠実さと無念な思いが胸にしみるが、雨の将来に希望を持たせて終わらせる、柳美里さんの筆力が見事だ。
人生の節目に読んで後世に語り継ごうと思う一冊です。
左の写真が文芸書。表紙が好きなので本棚に飾るように置いている。
右の写真が文庫版。挿絵の写真がきれいなので気に入っている。