「浜村渚の計算ノート」 青柳碧人
本屋さんにとっては迷惑だろうが、僕は本屋さんに一時間程入り浸り、鬼のような形相で買う文庫を選ぶことがある。
一時期本を買い過ぎて家計を圧迫した事があるので慎重になってしまうのだ。
良い本の選び方としてあとがきや解説から読む事がある。解説にはネタバレがあるが、面白い本はネタバレしてもなお面白いというのが持論だ。
本書もそうやって出会った。
解説ではこんな会話が紹介されていた。以下は刑事同士の会話
「0個のリンゴを4人で分けたら、一人分は何個だ?」
「……0個?」
「そうだ。0÷4=0だ。それじゃあ、4個のリンゴを0人で分けたら、一人分は?」
「0個」
「ちがう。今度は、リンゴはあるけど人はいないっていう話だ。『分ける』という行為自体、成り立たない。」
この後犯人がゼロをモチーフとした杖で毒ガスの入った容器を割ろうとする。
そこで浜村渚の説得が
「0で割っちゃ、ダメです」さらに
「これは、私たち人類が悪魔と交わした、数学史上最も重要な約束の一つです」と続ける。
この説得にユーモアとリアリティを感じた。
シリーズの犯人組織は数学の大切さを世に知らしめたいテロリスト。犯人が数学に精通しているだけあって数学は絶対だ。
浜村渚の数学に対して誠実な様子が伝わってくる。
僕は数学は好きだったのだが、苦手科目だった。中学生の時−2×−2はプラスの4になるというのが納得できず(−2+−2で−4になるのではないかと思ったのだ)、先生に質問したことがあった。
先生の答えは「そういう公式だから。まずは公式を覚えなさい。」というものだった。
それ以来数学のことで考えるのはやめにした。学校で教えることはあまり面白くないなって。
統計学や心理学など自分が興味を持てる数学にしか興味がなくなった。
今になって思う。その時に浜村渚に出会っていればと。数学にもっと興味を持てたのではないか。
筆者の青柳碧人先生も数学狂なので質問すれば答えてくれたのではないだろうか。
ちなみに上の疑問には(マイナスかけるマイナスでプラスになるのはなぜ?には)金八先生がドラマの中で完璧に解説していた。
そこもぜひ見てみてほしい。
本書は筆者がすべての数学好きとすべてのそうでもない人あてに書いたとのこと。
筆者が楽しみながら、生き生きと書いているのがこんなにも伝わってくる小説は珍しい。
数学狂の世界を味わえる一冊です。