「母さんごめん、もう無理だ」 朝日新聞社会部
僕は読み物で一番大事なのはリアリティだと思っている。
もはやリアリティバカと言われてもいいくらいだ。
ほんの僅かな違和感があったら読み進められなくなってしまう。
それは現実に則したものでなくてはならない訳ではなく、SFだったらタイムスリップはあるかもと思えればいいし、ホラーだったら幽霊と出会った時この登場人物のような反応をするかもしれないなと思えればいい。
マンガにも求めてしまう部分があって苦しんでいるし、それは段々と日常生活にも影響を及ぼしていて、、、
このことだけで2000字くらいは書いてしまいそうなので、そろそろ本題へ。
著者は記者で本書は裁判の傍聴録だ。
文中には一切の主観を入れず、取材の中で聞いたこと、裁判中の発言が余すことなく載せてある。
全てで29の事件がありそのなかには窃盗や殺人、教え子に試験の答えを教えた罪など、幅広く扱っている。
栽培院裁判で裁判員の法廷での発言や被告への励ましの言葉まで載っている。
本書の最大の魅力は裁判の実態を表現できていることだろう。例えをあげると
「まじめな医師のもう一つの心」は一見エリートに見える人生を歩んでいた研修医が放火の常習犯だったという事件の話だ。
この裁判の中で被告の生まれ、どんな勉強をしてきたか、大学生活の様子、初めての放火などが明らかになった上で裁判長が「あなたがなぜ?というところが、腑に落ちないんですよ」と動機を深いところまで聞いている。
裁判長や検察が考えた、もしくは作家が放火魔はこんな動機で犯罪を犯すんだろうなというものではなく一人の被告に対して真剣に向き合い、真相を明らかにしようとする人たちの姿がそこにあった。
「妻と娘を守る義務がある」では精神の障害がある三男の家庭内暴力に妻と娘の危機を感じた父親が、三男を刺して殺す事件の裁判が書かれている。
この事件では情状酌量が認められて執行猶予付きの判決になった。この時の裁判長の言葉に泣いてしまった。
「家族を守ろうとしていたあなたが、最終的には家族に最も迷惑をかけることをした。これからは、もっと家族に相談するよう、自分の考えを変えるようにしてください。」
父親は三男と幼いときは仲が良く、殺す前に心中するか考えるほど悩んでいた。
それらも把握したうえでの裁判長の言葉はあまりに重い。
今回は長くなってしまいましたが、僕はリアリティを大事にしてるんだなって伝わったら幸いです。
これに懲りずにまた覗いて頂けたら嬉しいです。