「二歩前を歩く」 石持浅海
本書は大好きなミステリーの一つです。
僕と筆者の心霊に対する考え方が似ているような気がします。
それを石持浅海さんの圧倒的な筆力で訴えてくれた上に、ユーモアたっぷりで大満足な一冊になりました。
本書は全てに超常現象が起こる珍しいタイプのミステリー短編集。
どの話にも探偵役として小泉が出てくる。各短編の語り手は彼と同じ会社で働いていて、小泉は研究者だ。
研究者だから超常現象を信じない訳ではなく、化学では分からないことが多いことを知っている。そこがすごくリアリティがある。
「この現象はまだ説明できない」と語る小泉がカッコいいのだ。
表題作にもなった「二歩前を歩く」では僕の前にいる何者かの気配によって前から歩いてくる人に避けられる話。
僕の前を歩く何者かは何がしたいのか?を描く。
「九尾の狐」では美人なのにずっと男の影がない先輩のポニーテールが生き物のように動く。
果たしてどんな時に動くのか?意識的に動かしているのか?先輩は何がしたいのか?
他にも帰宅すると一歩ずつスリッパが動いている話やガソリンが勝手に補充されている話など、不思議な事象の動機を探っている。
僕は幽霊を信じる方で、死ぬときに何を思うか、何の為に死ぬかが強烈なエネルギーを出しそれを感受できたもの・ことが霊現象だと思っている。
この本ではその考え方が少し似ていて「現象がなぜ起こるかは考えないことにしましょう。その現象はあなたに何を伝えたいのでしょうね。」とくる。
現象を解くための実験や検証、論理的思考のどれもが見事だった。
霊がたくさん出てくるが、先輩との恋の話もあり最後まで楽しめた。とても大切な一冊になった。